ダンディー先生のお茶飲み話

39.<よたびイス・いす・椅子>

前回椅子のお話・・・前回で終りのはずでしたがお盆が来たり、椅子の巨匠が一人亡くなったりで、ついもう一度だけご案内してみようかと思います。くどくなってすみません。
「お盆とイスと何か関係あるかしらー?」
ハイ、いえ、特に関係ないのですが、此の度お寺さんに久しぶりに寄ったりしたものですからーー。

曲ろく

手元に写真がないのでヘタなイラストですみません。細部まで画けていませんが、あ〜これならお寺で見たことある・・・とおっしゃる方も多いと思います。
僕は子供の頃、本堂の裏手に「3」のイスが片づけてあるのを何気なく眺めていたら通りかかったお坊さんが、イスを広げて腰掛けさせてくれ、払子(ほっす)を持って来て手に持たせてくれたーーそんな事があったのを想い出します。
イラストを見てすぐにお分かり頂けるのは中国のイスだな、ということでしょう。
<曲ろく>(キョクロク)と言われる仏具の中のイスです。「1」は鎌倉時代に禅宗が渡来したと同時に宋から来たものだそうです。
「2」「3」は折りたたみ式のもので少し遅れて桃山時代だそうです。普通見かけるのは朱塗り仕上げになっていますよネ。
これらは寺に居るものが誰でも使うものではありませんネ、いわば玉座の様なもので、その時の法会(ほうえ)を主催する法主、高僧のみが使うものとされています。参会者は畳の本堂なら正座ですネ。「2」に近いものは当リテラ編集局の調べでは現在も仏具屋さんが扱っているそうです。(15万8千円)
僕の記憶ではそのほとんどが「3」タイプのものですが。
「3」は「2」ほどペタンコに折りたたみはできません。・・・ところでこの折りたたみイスなるものの起源、日本には鎌倉に遅れて桃山時代ーと言うと如何にもその後の時代に追ってできたものと思われるでしょうが、たまたま日本に入って来た時期がそうなのであって、実際は違います。
折りたたみイスの発生はイスの成立とほとんど同じくらい古いのです。
話が長くなるので解り易い一例だけ申し上げます。
古代ローマを時代背景にした映画で、ローマ皇帝が出てくる場面を想い起こしてください。
王宮内でイスに腰掛けているのは皇帝一人だけ。他の者たち全員立ちっぱなし。皇帝が出かける・・・輿にのる、その後方をお付の者がイスを担いでついて行く。だからその時、そのイスは折りたたまれている。
このイス。ずっと後の時代になってイタリアではサボナローラとか ダンテスカなどと訳のわからない名称で呼んでいたりしますが、サボナローラやダンテが元祖でも何でもない。インドの元首相のネールさんが元祖でも何でもないのにネールジャケットと言うのと同じですネ。よくあることですが?

お話、変ってーー。
厳しい長い冬を過すスカンジナビアンが大のインテリア、家具、デザインが大好きな人達になるのはことの必然でしょうか?
その中にあってデンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナー(1914〜2007)は巨匠といわれていた人です。今年1月に逝去しましたが、50年以上にわたって500種以上のイスのデザインをしたといわれています。
そのデザインの一つには「ザ・チェア」とのニックネームを付けられたイスもあります。最高傑作、イスの中の椅子と言った意味です。

今、ここではそれについて申し上げているいとまがありませんが、「4」を見てください。Yチェアと言われるイスです。背面がYの字に見えますからネ。
ウェグナーのイスの中での大ロングセラー、ベストセラーなんです。月産1000脚くらい。・・・なんだそんなモノかなんて言わないでください。オーク材をこれだけ手をかけて仕上げ、座面はヒモ編みです。量産とはいいながらもハンディクラフトです。
どこかで見かけたことあるイスでしょう。あるいはあなたのお宅では既に使っておられるかも知れませんがーー。

Y-チェア

輸出先は日本が断然トップ。月産の半分以上。ウェグナーに限らず、これまた日本人は北欧モノ、大好きがお揃いですからネ。戦後直後はアメリカだったのですが、その頃はまだ北欧家具は彼等としては輸入材、チークやマホガニー材などでしたら、近年北方原産で白っポイ系統の木を多用するに至り(それができるようになり=国策林業支援で)日本人好みが加速したように思われます。

4〜5年前の話ですが、日本での北欧家具がちょっとした第2次ブーム・・・だとか。納入先は高級高齢者向け施設なんだそうです。これは如何にもピッタリのベストセレクションで北欧モダンデザインの良さが生きるであろうと思われます。

ちなみに、それでは西欧中心部の方々は北欧モダンデザインをどう思っているか? 分かり易く言うとキツイ表現になってしまいますが「確かにグッドデザインである。が、しかしいささかカジュアルだよネ。別荘でしか使えない。ジーンズと同じ。あれくらいグッドデザインはないよネ。だからと言ってジーンズでどこにでも行けるものではない・・・」ーだそうです。

ヒネクレ者の僕ですから、誰もこれまで指摘したことのないYチェアの美点を一つだけ申し上げておきます。
まずこのイスは食事用イスとして使われることが最も多いと思われます。賛成です。
食事用として肘付イス(アームチェア)を使っている所、レストランでも家庭でもよく見掛けるのですが、食卓の甲板とそのアームの先端との関係位置が気になりませんか?
最悪の場合手をはさむ。
イスへの出入りをアームとテーブルが狭くしているので、イスをうんとテーブルから後方に引き下げる必要が生ずる。
それよりも何より、アームチェアで食事をすること自体がマナーに反していると心得るべきです。
レストランのそれは"オーバーサービス"です。家庭でのそれは、仕事で疲れて帰宅したオトウさんがカンビール呑みながらTVでナイター見てる。・・・食事してるんだかなんだか? まぁ〜良しとしてやるかですからネ。
Yチェアはアームチェアでこそありませんが、そのバックバーの先端部がその替りをしてくれていますネ。

ちょっと話がとびますが、先頃ドイツで行われたG7。先進国首脳会議で、出席中のブッシュ大統領がちょっと体調をくずし、食事会を一回欠席したことがありました。「あることを思い出し、用心のために・・・」とのこでした。
その「あるコト」とは、そのTV中継を僕はタマたま見ていたのでよく覚えていまるのですが、お父さんのほうのブッシュ大統領が来日中のコトです。首相官邸での歓迎晩餐会の席で乾杯のあとイスから気を失って倒れて落ちちゃったのです。
こうした正式な食事会の中継は、宮中晩餐会でも同じですが、食事中の中継は許されません。せいぜいスピーチと乾杯までとしたものです。で、この時はその乾杯直後の事件だったのでまだ画面に大統領が映っていたのです。そして大統領一人が上半身を傾けて床に倒れ込み、テーブルの向うに見えなくなったのがまざまざと映った。隣の席の奥さんが手出しするヒマなく「ストーン」だった。突然の疲れからの体調不良とのことで、翌日退院、予定通りのスケジュールで無事帰国されましたがー。
ーーで、何が言いたいのか?と申しますと、こうした正式な席での食事用イスは必ずアームレスチェアであるということです。ブッシュさんの「ストーン」はそのことを証明していて、 もしアームチェアだったら床まで落ちはしなかったでしょうネ。
皆様もどうぞ色々な機会にその席の設え(しつらえ)を観察してみて頂いて、その上でご家庭での食事のマナー上、お父さんだけは許してやるにしても、特に子供たちに食事中にアームに手を掛けることの不良を知ってほしいものです。

さて、ウェグナーに戻りましょう。最後に「5」のイスを見てください。Yチェアーができる7年くらい前にデザインした「チャイニーズチェア」なるものです。フレームはチェリー材またはマホガニー材。座面のレザー張りクッションはオプションです。
あれだけ僕に言われちゃうと、もうこれを食事用にはしたくなくなるでしょう?
じゃーどう使うのがこのイスに最も適しているか?なかなか難しいイスですネ。

ChineseChair

サロン的なスペースで小さなティーテーブルを挟んで2脚。「そんなスペース、ウチにないヨ!」ハイ、失礼しました。じゃー、リビングのソファーセットのさらにベランダ寄りに。そうして、絶対にこれは忘れないでいてくださいネ。もしもお盆でお宅にお坊さまがお経を上げに来たりしたら、一脚だけこれを出してやる。余りは見えない所に隠して置くこと。これ重要です。
スェーデンの人にはわからないことですよネ〜。

ーー終りますーー

beer
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